おむすびマガジン 第45852号
2022.11.1発行

【カミヤミスジクラマエ インタビューvo.3】山野邉彩美さん

蔵前のなかでも、ちょっとディープな「三筋」エリア。2022年の9月、この地に新しい文化の発信地となる「カミヤミスジクラマエ」が誕生しました。ここで入居されているのは一体どんなお店・人なのか。このインタビュー企画にて、各階の入居者の方にこの場所を選んだ理由、ご活動の経緯などをお聞きします。第三回は、3階で新しく陶芸のアトリエを構える山野邉彩美さん。読んだらきっと、三筋が「ちょっと気になる」から、「行ってみたくなる」まちになるはずです。

節目の年に、自分のアトリエを持つことを決断した

――山野邉さんは会社で働きながらうつわの作品作りをされているそうですが、陶芸に興味を持ったのはいつごろからでしょうか?

山野邉さん:ファッションの仕事をしているんですが、海外出張へ行ったときに、アスティエ・ド・ヴィラットのお店に立ち寄ったんです。店内に入ると、まるでアート作品のようにうつわがディスプレイされていて。それを見て、わたしもこういうのつくってみたいな、と感じたのがきっかけでした。

――お店は販売しているというよりは展示されているような整然としたたたずまいで、とても美しいですね……! そこからどうやって陶芸を始められたんですか?

山野邉さん:ちょうど同じ時期くらいに、美大出身の女の子と知り合ったんです。ある日、彼女に「都内の陶芸スタジオをお手伝いしてるから遊びに来てよ」と声をかけてもらい、体験に行ってみたら、すごく波長が合って。「わたしも陶芸を学びたい」というタイミングだったので、週に1回行くようになりました。仕事柄、常に時間に追われてることが日常だったので、はじめはデトックス感覚でしたね。

――ちょうどいいタイミングにご縁があったんですね。自分のアトリエを持とうと決断したのはどんなタイミングだったんでしょう。

山野邉さん:陶芸を始めてもうすぐ5年目、私自身の年齢も節目を迎える年のタイミングだったので、自分の人生をどう歩みたいかを、改めて考えてみたんです。始めた当初よりも知識も増え、学校に通おうかなとも思っていたものの、仕事の兼ね合いもあって、現実的には難しいかな、と。それなら自分のスペースを構え、さらに経験を積み上げていきたいな、と考えるようになりました。

そのとき自分がやってみたいことを、とことん突き詰める

――実際に自分でうつわを作り始めてみて、どんなところが面白いなと感じますか?

山野邉さん:陶器にもいろんな種類があるんです。土ひとつで仕上がりが違ったり、同じ釉薬を使用しても別の表情になったり。深く知れば知るほど表現の選択肢が増えていって、面白いなと感じますね。また、他の陶芸家やアーティストの作品を見て「こんなところまでこだわってたんだ」と気づけるようになったのも、自分が作るようになったからだなと思います。

――たしかに、細部へのこだわりは作ってみないと気づけないことですよね。山野邉さんのうつわのデザインや作るものは、時期によって変化があるものでしょうか。

山野邉さん:それで言うと、こういった大きいお皿をここ二年くらいずっと作り続けていますね。作りすぎて、作品棚がパンパンになっています(笑)。自分のイメージに近いものが作れるようになってきてからは「ダイナミックなものをつくりたい」と思うようになって。どこをダイナミックにするか考えてみると、うつわそのものの「大きさ」にフォーカスを当ててみることもできるし、「色づかい」で表現することもできる。そのときどきで、やってみたいことをいろんな角度からやり抜いているかもしれないです。

――カミヤミスジクラマエの2階に入居されているdeps.の小島さんが、うつわを選ぶとき、使い方をなんとなくイメージされているとおっしゃっていたのですが、山野邉さんも作る段階で使い方のイメージを持っていたりしますか?

山野邉さん:大きさとかはそうですね。ただ、わたしは色彩が溢れているものが好きなので、お料理が映えるかどうかで言うと、そうでないものもあると思います。よく自分の家で招いた友人にうつわをあげることがあるんですが、受け取ってくださった方が「これだったら何に使おう?」って想像してくれる方が面白いかもしれません。わたしが意図していない使い方をしてくれるのもうれしいですし。作る上では、どちらかと言うと「自分が好きだと思えるかどうか」を大事にしています。

身近なものを、作品作りの表現に「変換」していく

――ファッションのお仕事をされているなかでインスピレーションを受けたり、作品に落とし込んだりされていることもありますか?

山野邉さん:仕事でもアートを見る機会は多いですが、わたし自身美術館に足を運んだりすることや画集を見ることも多く、そういったアート作品から得ることが多いですね。ファッションの分野だと、デザイナーさんの発した言葉や発信にヒントがあったりとか。あと、うつわを作り始めるようになってから、変換癖がついちゃってて。

――変換、ですか……?

山野邉さん:わかりやすく言うと、関係ないジャンルやものごとであっても、それを作品の表現に落とし込めないか考えてみる、ということですね。例えばこの作品なら、ジャクソン・ポロックの表現方法から。彼は、体を動かしながら表現する「アクションペイティング」という技法で、作品を描いているんです。そういう部分を陶芸でやってみても面白いかも、と自分の表現に取り入れてみたり。

山野邉さん:違う世界でも変換できることがないか想像したり、話した相手が興味を持っている分野が自分の知らないことだったら調べて、どういうふうに変換できるだろう、って一度は考えてみるようにしています。その変換癖が、おそらく今の作品作りに生きているんだろうなと思いますね。

カミヤミスジクラマエとの出会いは、ご近所さんからの紹介

――この場所を選ばれたのはどういう理由だったんでしょうか。

山野邉さん:このエリアはものづくりが根付いている土地で、街の雰囲気がゆったりしていて心地いい。中に入ってみればフレンドリーな人も多いですし。ゆっくり静かに、着実に、作品作りに取り組めそうだなと感じました。

――制作環境としてはぴったりなまちですよね。そういえば、カミヤミスジクラマエはどなたかの紹介で知ったとお聞きしました。

山野邉さん:この近くで「norm tea house」というお茶屋さんをやっている長谷川さんのところへ、陶芸帰りに寄ったんですよ。土でどろどろの状態で(笑)。そしたら初めて会ったのにとってもきさくで、会話が弾んだんです。長谷川さんの人柄の良さが垣間見れるエピソードになるのですが、わたしが「この辺りでアトリエ探している」と話していたら、一緒に物件探しを手伝ってくださって、この場所を紹介してくれて。自分で探してみても希望に合う物件が見つからなくて、諦めかけていたところでした。ご縁だなと感じています。

制作とじっくり向き合うアトリエを持ったら、ゆくゆくは個展も

――これからやってみたいことはありますか?

山野邉さん:そうですね、ばっくりと思い描いていることの一つとして、来年個展を開催したいと思ってます。場所とか内容とかは決めていませんが。

――すごい。たのしみです。このインタビューを見てくださっている方はきっと、「購入してみたい……!」と思う方もいらっしゃるんじゃないかと思うのですが、ゆくゆくは購入できるようになりますか?

山野邉さん:そうですね。いろいろ検討を重ねている段階で具体的にはまだお伝えできないのですが、たのしみに待っていてください!

――それにしても、もともと陶芸を気分転換で始められたと思うのですが、今ではまるっきり逆ですよね。息つく間もなさそうです……。

山野邉さん:そうですね。月の半分は制作していると思います。作っているときは全然苦ではないんですが、今年の4月くらいに体が起き上がらなくなってしまって。没頭注意ですね(笑)。

――今はまた別で息抜きを見つけているんですか?

山野邉さん:作ったものに、お料理を盛ったりお酒ついだり、友人を招いて一緒に食事をしていると、「あー、作ってよかったかも」って思います(笑)。そのまま持って帰ってもらうのもうれしいですね。

――これからこの場所に対して期待していることはありますか?

山野邉さん:カミヤミスジクラマエができたことで、人が集まるようになったら面白いですね。わたしのやることは自分の制作が中心ですが、1階と2階のおふたりも含めて、面白い方たちが周りにたくさんいるし、まちに人が来るようになれば、いい化学反応が起こるんじゃないかなと。そこに私も参加できれば、きっとたのしいだろうなと思っています。

取材・文=ひらいめぐみ 撮影=奈良岳