おむすびマガジン 第43150号
2022.7.11発行

【隠居屋インタビュー】「安心な素材を使って、いいものをお客さまに提供したい」オーガニックカフェの店長を経て自分のカフェをオープンした川喜田奈美さん

大正時代に建てられた風情ある建物で、曜日制のカフェやイベントが行われている「隠居屋」。「古き良きものを後世に残したい」という思いから、オーナーの石井さんが古民家を改装し、レンタルスペースとして開放したり、子ども食堂を開いたりすることを通して地域のつながりを生み出しています。初めて訪れても、どこか懐かしさを感じる立派な日本家屋や、漂う静謐な空気に、リラックスしながらも心のどこかでぴんと背筋が伸びる、そんな空間です。

2009年、八柱駅に程近い場所で産声をあげたオーガニック&フェアトレードのコーヒーを飲むことができるカフェ、スローコーヒー。2021年に惜しまれつつ閉店するまで、実に10年以上も松戸のオーガニックシーンを引っ張ってきました。

そんなスローコーヒーで店長をしていたのが、今回インタビューする川喜田さんです。スローコーヒーでのつながりも生かし、現在は「つながる古民家 隠居屋 IN kyo-Ya」にて「ごはんとおやつとコーヒー cafe me」という名前で不定期にカフェを開いたり、各地のイベントに出店したりしています。

なぜカフェに興味を持ち、自分のお店をオープンしようと思ったのでしょうか。omusubiスタッフの宇田川と庄司がお聞きしてきました。

プロフィール

川喜田奈美
大学卒業後、土木系の会社で約3年事務を経験。その後、八柱にある「フェアトレード」「オーガニック」のコーヒーを扱う老舗カフェ、スローコーヒーで働き、店長となる。2021年、スローコーヒーが惜しまれつつも閉店した後、「ごはんとおやつとコーヒー cafe me」として隠居屋にて定期営業を行う。現在は不定期でイベントやカフェ営業を行っている。

小川糸さんの『食堂かたつむり』を読んで自分のカフェを開きたいと思った

――スローコーヒーさん、素敵な雰囲気でしたよね。閉店してしまって寂しいです。今のように、カフェの経営に興味を持ったのはいつ頃、どんなきっかけからだったのでしょうか。

大学を卒業したあと、土木系の会社で事務をしていたときのことです。いい方ばかりでしたし、知らないことを知ることができるという意味でとても楽しい日々でした。

仕事は仕事としてやりがいを持ってやっていたのですが、あるとき小川糸さんの『食堂かたつむり』という本を読んで、すごくインスピレーションを受けて。ひとりの女の子がお店を開く話なんですが、それを読んだときに「自分のお店を開くっていいな」と感じ、いつか自分のカフェを持ちたいという夢ができたんです。

カフェって食だけではなく、イベントをやったり、コラボをしたりといろんなことが可能ですよね。劇とか映画の演出にも興味があったので、それこそカフェって自分で演出することもできますし、いろいろな可能性がある仕事だなと感じました。

――たしかにさまざまな取り組みをしているカフェは多いですよね。その後、どうされたのですか。

会社を辞めて、カフェの仕事を探していたんですが、ふとスローコーヒーさんの当時の店長さんがお友達だったので、会いに行きました。自分の状況を話すと、「今は人がいっぱいで」といったんは断られたのですが、その日のうちにまた連絡があって、スタッフがひとり辞めることになったのでよかったら来ませんか、ということになりました。

――すごいタイミング! スローコーヒーさんでの日々はいかがでしたか。

アルバイトで入って、2年経って社員になり、そこから1年ほどで店長になりました。カフェで働くことが初めてだったので、すべてが新鮮でしたね。

――閉店を知ったときはどんな気持ちでしたか?

閉店の2か月ほど前に社長が直接来るというので薄々予想はしていましたが、実際に言葉で告げられるとやはりショックでしたね。10年以上続いたカフェだったので、リピーターのお客さまから「残念だよ」という声をいただくと申し訳ないなという気持ちでいっぱいでした。

隠居屋さんの四季折々の庭の眺めが何よりも好き

――隠居屋さんのことはどのようないきさつで知ったのでしょうか。

スローコーヒーにいるときから、いつかは自分のカフェをやりたいと周りにも言っていたんです。閉店になってしまったタイミングで、焙煎所の社長さんがOne Tableさんや隠居屋さんのことを教えてくれて、実際に行ってみて、ぜひここでカフェをやってみたいなと思いました。

また、スローコーヒーでパンを仕入れさせてもらっていたマルサン堂さんから声をかけていただいて、今はそちらでも働いています。パンも勉強してみたいと思っていたので、願ってもないお声がけでしたね。

――実際に隠居屋さんで定期営業を開始されてからはいかがでしたか。

とにかく古民家の空間と、四季のお花や自然がとても綺麗で。季節ごとに違うお花が咲いて、お庭がいつも楽しみでした。キッチンの設備もとてもよくて、お皿も置いていくことができますし、もともとあるお皿も使っていいので、全部買い揃えなくてもお店がスタートできて、とてもありがたかったですね。

はじめの頃はお客さまも多かったですし、自分ひとりで何から何までやるのが初めてで、1回終わるとぐったりでした(笑)。正直なところ、1年続けられるのか不安もありました。

知り合いの人たちや、スローコーヒーに行ってみたかったけど行けなかったという方などが来てくださって、助けられました。

ちょうど1年たって、他のカフェに行ってみるなどのインプットをもっとしたいと感じたので、定期営業は卒業して、今は不定期にイベントやカフェ営業を行っています。

――隠居屋さんでの経験が今も生きているなと感じることはありますか。

月に2回とはいえ、最初は自分にできるのかなと不安だったのですが、1年続けられたことが自信になりました! また、先日カフェをやってみたいという方とお会いしたんですが、隠居屋さんでの経験や、それまでのカフェでの経験から私が伝えられる範囲でのことはお伝えできたので、実際にカフェ営業をやってみて、学びが多かったなということを再確認しました。

――隠居屋さんでのイベント「あそびのいえ」にも参加されていましたね。

はい。2回参加したんですけど、1回目はご飯ものだったこともあって、現地でやること、やりたいことが多すぎて大変でした。2回目はそれも踏まえて焼き菓子にしたんです。準備を頑張れば、持っていって販売するだけなので、現地で他のアーティストさんの活動なども見られて充実した1日でした。天気もよくとてもにぎわっていて、こういう場所がもっと増えたらいいなと感じましたね。

――松戸についてはどんな印象をお持ちですか?

面白い試みをしている方が多くて、同じ興味を持っていたり、共感できるところがある方たちとのつながりがどんどん広がっていくのが楽しいと感じますね。ずっと通っているところでもあるので、親しみも感じています。

いろいろな場所を間借りしてカフェをすることで生まれる偶然の出会いが楽しい

――カフェ以外にもいろいろなことに興味があるとおっしゃっていましたが、今後はどのような活動をしていきたいですか。

引き続きインプットのためにいろいろなお店を見て、借りられる場所を利用してコーヒーや焼き菓子、ごはんなどを提供できたらと思っています。

店舗を構えることにも憧れはありますが、前ほどこだわりはなくて、店舗がなくてもいろいろなところへ行ってカフェをオープンすることができますし、出店者さんなど、いろいろな出会いがあって楽しいんです。

逆に、いつか自分が店舗を持つなら、自分が営業しない日はレンタルスペースにして誰かに使ってもらえたらと思いますね。マルシェなどを開いてもいいなと考えています。

料理に使う無農薬野菜を仕入れている有機農家、綾善さんと。

――どのようなときに、この仕事をしていてよかったと感じますか。

お客さんとお話ししているときもそうですし、事務の仕事をしていたときに比べて同じ会社の人だけじゃなく、いろんな人と会えて、つながりが増える楽しさがあります。

お料理を作って、目の前にいるお客さんに提供するというシンプルさが気に入っていますね。

気軽に来ていただきたいので、提供するものの値段は高くしたくない。原価を下げるという工夫も考えられますが、わたしがこだわっている部分はできるだけ添加物などが入っていなくて、安心でいいものという点なので、そこは妥協したくないと思っています。

「そのお店の作り手のこだわりに共感してくれるお客様は、必ずいてくれる」ということがこの1年でわかったので、これからも食材にはこだわって、自分が信じるいいものを提供していきたいです。

――川喜田さんの、映画や本からインスピレーションを得て、自分のやりたいと思ったことをしっかりと形にしていく力、素晴らしいなと感じました。また、常にアンテナを張って気になるお店などを訪れ、つながりを広げていっているのも素敵です。これからのご活躍も期待しています。


ごはんとおやつとコーヒー cafe me
不定期でイベントや青空コーヒーを計画中!
日常の活動や、川喜田さんが好きなお店を紹介しているインスタグラムをぜひチェックしてみてください。
https://www.instagram.com/cafe_me73/

隠居屋さんでのカレー教室の詳細はこちら
【スパイスからつくるお野菜たっぷりキーマカレーをつくりましょ!】🍛
*デザート&コーヒー(もしくはほかのドリンク)付き
日時▶︎8月6日(土)11:00〜14:00 定員6名
参加費▶︎¥4,500 (税込)
場所▶︎ つながる古民家 隠居屋 IN kyo-Ya

取材/omusubi不動産 庄司友理佳 宇田川理絵
文/宇田川理絵 
写真提供/川喜田奈美