イベントレポート 第17019号
2018.10.25発行

古民家を地域とつながる場にする実験Vol.2:関われる場所をつくる 「古民家ジャズキッチン」イベントレポート

違う国にでも来てしまったのかと思うほど暑かった今年の7月。

松戸駅から徒歩18分という立地にも関わらず、この日も古民家を改装してつくられた隠居屋 IN kyo-yaにはたくさんの人が集まってきました。

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隠居屋 IN kyo-yaは大正時代に建てられた古民家を改装したスペースです。

この場所をこれからどう使っていくのかを考えるために、実験的に3回にわたってイベントを開催しています。

第2回となる7月21日は「古民家ジャズキッチン」と題し、おいしい食事とお酒を片手に楽しむジャズの演奏が行われました。今回はその様子をお届けします。

イベントの後には隠居屋の女将である石井さんが、この場所をどう使っていくか。いま考えていることを聞かせてくれたのでご紹介します。

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今回の食事を担当してくれたのは、フードユニット Teshigoto。空間の雰囲気に合わせて、たくさんの日本酒も並びます。

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すてきな音楽を奏でてくれるのは、ベルリンを拠点に活動しているコンテンポラリー・ジャズ・トリオ「kokotob」の3人。10年ぶりに来日してツアーに回っているそうで、松戸駅前のPARADISE AIRに滞在中、隠居屋でも演奏することが決まりました。

この家にずっと置いてあったというピアノとクラリネット、そしてヴィブラフォンという大きな鉄琴がセットされ、演奏の準備が整います。

「古民家とか好きなんですよ。ふだんこういう歴史を感じる空間でライブをすることがあんまりないから、すごく楽しみです。」と話してくれたのはヴィブラフォンを担当する齊藤易子(たいこ)さん。

演奏がはじまると、それまでお酒を片手にワイワイしていた会場の空気がすっと引き寄せられます。

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軽やかな演奏の途中、ふと足元を見るとピアノのペダルを裸足で踏む様子。裸足で演奏をするのも、和風の空間ならではなのかもしれません。

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次々と演奏される曲のなかには折り紙や、びっくりドンキーという店名からインスピレーションを得たというものも。

演奏が盛り上がってきたころ家の外に出てみると、漏れてくる音楽と庭の木々を揺らす風の音が混ざって聞こえてきます。

昔はこんなふうに家から聞こえてくる声と、家の外の音はつながっていたんだろうな。そんなことを考えている間に、あっという前に演奏会は幕を閉じました。

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「今日はすごくよかったですね、やっぱり音楽には、一瞬にして人を捉える力がありますね。祖父母が住んでいた家が、こんな場所になるなんて。すごくうれしかったです。」

そう話してくれたのは、隠居屋の女将である石井さん。

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ここはもともと、石井さんのおじいさんが住んでいた家でした。

「誰も使っていなかったから、壊しちゃえばいいのにっていう話もあったんです。でもふと、40年前に祖父が直していたことを思い出して。全体を持ち上げて基礎を整えたり、瓦もぜんぶ変えたり。そんな大切にしていた家って、壊しちゃまずいんじゃないの?って。」

石井さんはインテリアコーディネートの仕事をしたことをきっかけに、建築にも関心を持つようになったそう。それからは、立派な梁が通っていたり、細かな装飾が施された欄間があったり。この家が大切にされてきたことが見えてきた。

「正直このあたりはお店も少ないし、今住んでいる横浜と比べて田舎だなって。あんまり好きになれなかったんです。でも両親のこともあるし、そのうちこっちに引っ越してくるんだろうなって思ってはいて。」

「こっちに来ることになったら、友達もそんなにいないし、やることがない。最初は裏にある小さな蔵で、ギャラリーカフェでもはじめようかと思っていたんです。」

石井さんが最初に目をつけたのは、この家の裏にある蔵。今日は演奏とは別で、ロンドンで活動するアーティストの展示会場として使われていました。

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「でも裏で小さくやってても、誰も来ないでしょ。だから蔵の前にあるこの家を、人が集まるような場所にできたらいいんじゃないかって。このあたりは車は通るけどあんまり人通りがなくて、さびしいなって思っていたんです。」

以前他の不動産屋に相談したところ、この古民家を使ってレストランを開きたいという人が見にきたことも。

広さや席数の関係で折り合いがつかなかったものの、話を進めるなかで、テナントに貸すのは違うような気がしてきたそう。

「常に人がざわざわ集まっている感じがいいなって。それで、もうやるしかない!って、思いきって改装をしました。」

ふつうは入居者や使用用途が決まってから改装をすることが多いけれど、石井さんはなにも決めないまま、リノベーションに踏み切った。

「これはもう、やるしかないだろう!って、パーッとやっちゃったんですよね。改装したはいいものの、使い方はしばらく決まりませんでした。」

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石井さんがomusubi不動産に連絡をくださったのはちょうどその頃。どんなふうに空間を使っていくか、お互いにアイディアを出していったものの、なかなかピンとくる方向性が見えてきませんでした。

「やっぱり自分が関わりたかったんだと思います。レストランが入るとお金も回収できるし、簡単かもしれない。でも私が関わりを持てないのは寂しいなって。今みたいにみなさんがワイワイ準備をしたりしているなかにいられるのが、嬉しいんです。」

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「つながりをつくれるのが嬉しいんですかね。若いアーティストを応援したいっていう気持ちもあって、発表の場にでもしたら楽しいだろうなと思っているんです。

たとえば蔵で考えているのは、巨匠お断りのギャラリーカフェ。若い人たちに使ってもらいたいんですよ。」

断られた人は、つまり巨匠。それなら納得がいくかもしれませんね。

「ふふふ。それいい案かも。手仕事をしているクリエイターや職人さん、工芸をしている人も好きなんです。イベントスペースみたいにしておいて、実験的に続けていけたらいいのかなって最近は思っています。」

今予定している実験イベントは全部で3回。これが終わったあとも入居者を探すというよりは、毎回場所の使い方が変わっていくような場所になるのかもしれませんね。

「アーティストを紹介してくださるPARADISE AIRやomusubi不動産のみなさんとご一緒するようになって。最近は、松戸っていいところじゃんって思うようになったんです。松戸で活動している若い人たちにお会いできるのが楽しいんです。」

終始楽しそうに話をしてくれた石井さん。どうやらこの場所をどんなふうにしていくのか、イメージが少しずつ固まってきたようです。

第1回のトークイベントで出てきたキーワードは「中心になる人がどうやってそこにいるかで、場の空気ができていく」ということ。石井さんがいる空間は、どんな色の空気になっていくんでしょう。

*今後、「隠居屋 In kyo-ya」はスペースの時間レンタル(期間限定)を実施する予定です。
詳細はomusubi不動産ホームページにて掲載しますので、どうぞお楽しみに♪

(写真・文 中嶋希実)