イベントレポート 第22067号
2019.8.5発行

地域の編集ってなにやるの? d design travel編集部 佐々木 晃子さんをお招きした「やはしらジオ」レポート

omusubi不動産が5周年を迎え、街の情報を等身大で伝えていきたいとスタートした「やはしらジオ」。記念すべき1粒目のゲストは、『d design travel』(ディ デザイン トラベル)編集部の佐々木 晃子(ささき・あきこ)さんです。『d design travel』はデザイン活動体であるD&DEPARTMENTが出版する、47都道府県のトラベルガイドです。

omusubi不動産の元入居者さんに、元D&DEPARTMENTの方がいたことがきっかけで、d design travelの巻末に取材して頂いたり、千葉号の取材で一緒に街を回ったりするなかで生まれた佐々木さんとのご縁。

D&DEPARTMENTの考えやd design travelが大切にしていること、またお住まいを松戸に移されるほどに松戸の魅力を知る佐々木さんに、たっぷりお話を伺いました!


-前回「やはしらジオ」プレ企画に協力してくれたTokoa coffee池田さんが届けてくれたコーヒーを飲みながら。池田さん、ありがとうございます!

D&DEPARTMENTとd design travel(千葉号)とomusubiと。

ー中央がゲストの佐々木さん。omusubi不動産から殿塚(右)と本田(左)がお話を伺いました。

佐々木さん:D&DEPARTMENTは2000年にデザイナーのナガオカケンメイによって創設された、「ロングライフデザイン」をテーマとするストアスタイルの活動体です。会社なんですけど、一般企業という感覚が全くないので“デザイン活動体”とでも言いますか。デザイン事務所って言っちゃうとデザイナーだけがいる感じなので少し違うかな。

“デザイン活動体”という少し聞きなれない言葉に対し、サラリーマン時代が長かった本田から、「ちょっと不思議な感じがするのですが、どういうお仕事形態なんですか?」と質問が入ります。佐々木さんにD&DEPARTMENTの概要について教えていただきました。

佐々木さん:47都道府県に1か所ずつ拠点をつくりながら、物販・飲食・出版・観光などを通して、47の「個性」と「息の長い、その土地らしいデザイン」を見直し、全国に向けて紹介する活動を行っています。ショップもあるし、飲食店も展開しています。私は1冊につき1県を特集したガイドブック「d design travel」をつくる出版事業部にいるのですが、編集者やデザイナーもいますし、様々なデザイン活動に紐づくものが、日々色々な部署で行われています。

本田:面白いと思ったのは本の裏に、コントリビューターズ(直訳すると貢献人)ってあるじゃないですか?そのネーミングもすごく素敵だなって思いました。ただスタッフや編集者としてまとまっているのではなくて。

佐々木さん:地域の情報を得るのには、地域の人が一番地域のことを知っているので、地域の人と一緒に本をつくる、というのが根底にあります。ですからd design travelは2ヶ月間暮らしながらつくることが軸になっており、第1号の北海道号の時からその作り方を守っています。ですから、d design travelの制作には、このコントリビューターのみなさんの協力が不可欠で、多いときは90人くらい掲載することもあるんですよ。千葉号でいうと殿塚さんもいらっしゃいます。

殿塚:はいっ! ぼくらと佐々木さんの出会いもこのコントリビューターがきっかけだったんです。以前、D&DEPARTMENTで働いていた人が家を探しに来てくれたんですね。その方が平屋のちょっと変わったところをDIYしながら借りていて、その人が「ちょっと変な不動産屋で借りていたよね、取材してきてくれ」と言われて僕らを取材してもらって。佐々木さんも千葉号を制作している時は、パラダイスエア※にアーティストとして滞在しながら過ごしながら作ったんですよね。

※パラダイスエア(PARADAISE AIR)…千葉県松戸駅前に位置するアーティスト・イン・レジデンス。世界中から訪れるアーティストに滞在場所と制作場所を提供し、国内外のアーティストの制作活動を支援している。

佐々木さん:d design travel は1県1冊と決めて、2019年4月現在、25号目(高知号)を発表しました。バタコさんが表紙の本で、よくインスタに挙げてもらっています。笑
毎号、同じボリューム、同じページ数、同じ版型、同じ基本の企画で、その県の「ロングライフデザイン」と言う私たちがテーマにしている部分を、炙り出すような作り方をしています。

本田:今って、インターネットが普及しているので、その土地の情報が入ってくるじゃないですか?そこをあえて紙媒体として凝縮しているのは、何かこだわりがあるのですか?

佐々木さん:良い質問ですね。編集長ナガオカケンメイの紙媒体に対する思い入れがすごくあって。ネットで見れる時代に紙媒体にする意味や価値にこだわり続けて、今年10年目になります。

殿塚:10年ってすごいですよね。

佐々木さん:やはり葛藤はありました。新刊が出たら息絶えるというような更新サイクルではなくて、その地域の長く続いているもの、あるいは今から長く続いていくだろうというものを未来を見据えて取り上げているので、情報更新をしないでずっと販売し続ける。紙媒体が難しいと言われる時代でもその視点で続けているので続けられているんだと思います。それまで流行をキャッチーに届ける仕事をしていたので、「えーっ」って、すごい頭をぶん殴られた感じがしましたね(笑)

本田:トレンド情報が必要な人もいる。でも、時代の流れによってずっと残すもの、いつみてもいいなと思えるものが載ってる。それがこの雑誌の素敵なところだなと思います。

「ロングライフデザイン」という哲学
殿塚:付き合いで知り合いの方のお店を載せるのではなく、きちんと自分たちの公平な目で選んでいらっしゃって、軸がしっかりされてますよね?信頼がおけるというか、すごくいいなと思って。

佐々木さん:発行人のナガオカケンメイの考えというのがあって、何回もすりきれるほど復唱しているのですが…。編集の考え方で、その土地らしいこと、その土地の大切なメッセージを伝えている、その土地の人がやっている、価格が適正でデザインの工夫がある、ということがこの本の前提にあります。

ここで本田が良い声でd design travelに掲載されている【発刊の思い】を朗読します(笑)。

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これからの世代のみんなが、日本中と交流をするためには、デザインの目線がとても重要になっていくと考えます。
それは長く続いていくであろう本質を持ったものを見極め、わかりやすく楽しく工夫を感じる創意です。
人口の多い都市が発信する流行も含めたものではなく、土着的でもそのなかに秘められた個性、それらを手がかりとして、具体的にその土地へ行くためのデザインの目線を持った観光ガイドが必要と考え、47都道府県を1冊1冊同等に同じ項目で取材編集し各号同等のページ数で発行して行きます 。
発行人ナガオカケンメイ
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ここで殿塚が、ロングライフデザインが根付いてきていると感じた、鎌ヶ谷市の20代の男性のエピソードを話します。その男性は学生の時にD&DEPARTMENTに出会い、その考え方に感銘を受けて、千葉の良いものを集めたセレクトショップ「CB PAC」をスタートしたそう。

殿塚:自分たちの哲学を言い続けるのって大事ですね。

佐々木さん:ナガオカケンメイという代表が色々なところで語ってきていることを、スタッフは広めています。私は各地に2カ月滞在している間に、d普及活動という視点を持っています。このロングライフデザインの活動自体を伝えた上でこの本があって、それを地域の人たちが自分たちの土地に当てはめてみていくことに、みんなどんどん熱があがっていく。うちの街って美しい町だなって思ってもらいたいんです。

松戸の魅力について

佐々木さんとナガオカケンメイさんとの出会いのエピソードもお話いただいたところで、インスタグラムで事前にいただいた質問コーナーへ。

質問:松戸の魅力はなんですか?

佐々木さん:大都会みたいな居酒屋がすごく安価(ハイボール180円くらい)だったり、野口やさんとか(ファミコンが2階で出来る店)。そういう店に誰かと一緒に行くことで、次から一人でも行けたり、人を連れて行けたり。
パラダイスエアを始め、すごく安価で個性的な飲み屋さんやomusubi不動産があり、自分たちが会話できる人たちが住んでいる街が自分の日常になると思ったら、新しい自分が発見できそうというか。そこが松戸の魅力だなと。パラダイスエアも行政が関わって、アートやデザインに関心を持って具体的にお金をつかっている街ってすごい文化度が高いなって思うんです。

それに、付け足しみたいになっちゃうけど、この街にこの不動産屋さんがあるから引っ越したいって思うことなんて、そうそうなくないですか?

殿塚:あはは(笑)これを忖度といいます(笑)

***
佐々木さんのように全国の魅力を知っている方が松戸に引越してきてくださるなんて、とても嬉しいですし感謝です…! 最後のエンディングでは、次の香川号では画期的な改変があると発表が。

佐々木さん:第1号を発刊した2009年は、地域らしさとかが今より言われていなかったのですが、今25県目に入って折り返したことになります。今まで年に3刊生み出してきましたが、それが年2刊に変更になり、新たにd newsというものが始まりました!

d newsはD&DEPARTMENTの活動のテーマである「ロングライフデザイン」をより共有していく、会報誌的な立ち位置にあると言います。d news0号は、昨年クラウドファンディングでみなさんに参加してもらい今年の春創刊しました。今後も“関わっているみんなで参加する”という新しいメディアの考え方を取り入れているそうです!

本日はロングライフデザインについて素晴らしいお話をいただき、ありがとうございました!

■やはしらジオ アーカイブ
0粒目:Tokoa Coffee 池田和繁さん

■やはしらジオ視聴方法
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(omusubi不動産:@omusubiestate / https://www.instagram.com/omusubiestate/

※次回の放送は、omusubi不動産ホームページやSNS等で発信してまいります。