JR南柏駅という、JR常磐線の各駅停車のみが停まる駅から、さらにバスに揺られること約10分。静かな住宅街を歩いていくと、小さなお店が見えてきます。
中古住宅をリノベーションして作られたお店には、古さがありつつもすっきりとした印象の家具が置かれ、漆喰で塗られた白い壁が広がります。おしゃれだけれども、どこかほっとする空間です。
「食堂果樹」を運営するのは、中村菜穂さん・雅樹さんご夫妻です。お店作りには、omusubi不動産も関わらせていただきました。
利便性があまり良い場所ではないながら、何度も訪れるファンが多い「食堂果樹」。菜穂さんに、お店をつくるまでの道のりやDIYやワークショップでの空間づくり、これからの「食堂果樹」について伺いました。
■菜穂さんたちのセンスが光る、食堂兼雑貨屋さん■
「食堂果樹」は、週替わりのランチメニュー、デザートやドリンクを味わうことができるお店です。2018年3月からは、日中とは異なるメニューを楽しむことができる夜営業もスタートしました。
*現在夜営業はお休み中!詳細はインスタグラムをご覧ください。
訪れた日の週替わりのランチメニューは、カンパーニュサンドイッチ。BPTサンドは、肉厚なベーコンとマッシュポテト、そしてバジルソースがとても良く合います。もうひとつのツナトマトサンドも、シンプルながら思わず食べる手が止まらなくなってしまう味です。
バターチキンカレーは、週に関わらずいつでも味わうことができる定番メニュー。
一見おしゃれなカフェメニューといった雰囲気ですが、「食堂果樹」のメニューはどれも食べ終わった後にしっかりとした満足感が残るもの。「カフェ」というより、おいしいものをお腹いっぱい食べられる、まさに「食堂」のメニューです。
店内では、雑貨の販売も行われています。この日は「紙モノ展」が開催中。小さな店内の一角に、菜穂さんがセレクトしたポストカードなどが並びます。
取材をしている途中には、小さなお子さんとお母さんの姿も。大人がランチを楽しむ中、子どもたちは自分で本を読んだり、お店の中を歩き回ったり。「食堂果樹」では、誰もが、のびのびと過ごしています。
■様々な‟食”と接する中で形になった、「カフェをやりたい」という思い■
菜穂さんはこれまで、カフェを中心に様々な‟食”の世界で働いてきました。その中でも、最初に働いていたカフェは大きなきっかけを菜穂さんに与えてくれたのだそう。
菜穂さん:「食堂果樹よりももっと古い建物を使ったカフェで。空間や料理、一緒に働いていた人など、そこで受けた影響はすごく大きいですね。」
その後は、自分のお店を持つことも視野に入れながら、多様な働き方をしていた菜穂さん。時にはバウムクーヘンを売る仕事をされていたこともあったそう!
(2枚目提供:おこめのいえ手創り市)
並行して「ナホトカ食堂」という屋号を掲げて、自分の活動をスタートさせます。イベントに出店したり、自宅で日にちを限定した営業を行ったりしていました。
菜穂さん:「自分のお店を出したいという思いはずっとあったんですけど、最初は夢みたいなものですよね。でも、松戸に引っ越してきて、子どもが生まれて、と状況が変わる中で、徐々に実現させていきたいと思うようになりました。」
お店ができる中古の住宅を探した菜穂さんは、現在の南柏の場所を見つけます。取り壊されてしまう予定だった建物も含めて、菜穂さんご家族が次の住まい手として育てていくことになりました。
菜穂さん:「前に住んでいた方が庭を精力的に手入れされていて、近所でも有名なところだったそうなんです。今でも『前に住まわれていた方の知り合いで』っていう方が遊びに来てくださったりすることもあるんですよ!なんだか嬉しいつながりですよね。」
■ワークショップとDIYでつくったカフェ空間■
今の場所に移る前から、家の壁を塗ったり、自宅の洗濯機カバーを作ったりとDIYを楽しんでいた菜穂さん。お店兼自宅を作るにあたり、自分たちでできるところはDIYで整えていくことに。
DIYは、自分たちだけでするのではなく、ワークショップを行いDIYに興味がある人たちにも体験してもらえるようにしました。
ワークショップは、既存の天井や壁紙はがしや漆喰塗り、床張りなど、6回ほどに分けて開催。ワークショップだけでは終わらなかった部分は、自分たちで作業を進めていきました。
菜穂さん:「壁塗りが本当に大変で、ずっと毎日壁を見るっていう日が続いて・・。だから今誰かが来てくれるとか、店に立てるとかっていう小さなことがすごい嬉しい。仕込みが大変な時も『壁を見てた日を思うとなんていいことか!』って思っちゃうくらい。(笑)」
また建具や家具は、以前働いていたカフェで使用していたものを引き取ったり、栃木などで買い集めたりされたのだそう。
様々な場所から、菜穂さんたちのセンスで集められたものたちがぴったりと収まり、調和がとれた空間になっています。
■菜穂さんだからこそ、生み出せる味■
菜穂さんがつくる「食堂果樹」の料理は、どれも○○料理とジャンル分けするよりも、‟「食堂果樹」のメニュー”と呼ぶのがふさわしいものばかりです。
菜穂さんは、どうやって「食堂果樹」のメニューを考えているのでしょうか?
菜穂さん:「メニューは多国籍だったり、私の創作だったりするものが多いんです。ふっと思いついたものもあれば、以前働いていたお店を参考にしていることもありますね。『これにちょっと足したらまた違う味になるだろうからやってみよう』っていうのもありますし。」
「夫も料理人なんですが、私とはまた違うんですよ!」と言う菜穂さん。
菜穂さん:「夫は和食の基礎を積んできているので、板前っぽい突っ込みを受けたりするんですよ。『これはどういう風な割合でやってるの?』って。そうすると私は『要領はわかってるから、若干勘?』みたいに答えたりして。(笑)
たぶん私は和食の味は作れても、それはきちんと構築された和食とかではないんですよね。だから、メニューとして完成していないものはすごくいっぱい味見をする。私はそうやって作っていってるかな。」
■「ふふっ」とほほ笑むことができるようなお店に■
2018年4月に2周年を迎えた「食堂果樹」。夜営業では夫の雅樹さんが中心となってメニューを出すなど、「食堂果樹」はまた新たな一歩を踏み出しています。
今後「食堂果樹」はどんな場所になっていくのでしょうか?
菜穂さん:「道を歩いていて、夏ミカンとかがたわわに成っている家を見つけるとふふって嬉しくなるじゃない?そのくらいな感じになれたならって。すっごい気の張ったオシャレな感じではなく、もうちょっと『ふふっ』って楽しい感じになれるお店かな。」
菜穂さんご家族のお名前(夫の雅樹さん、お子さんの木ノ果ちゃん)を知っている方は、「食堂果樹」の名前について「家族思いなんですね」と言ってくださることもあるのだそう。
「そういう背景も持ちつつ、『果』とか『樹』っていう言葉の意味も含めて「食堂果樹」っていう名前なのかなって」と話す菜穂さん。
そして、個人として活動していた頃から使っている‟食堂”という表現にも、菜穂さんが目指すお店の形が込められています。
菜穂さん:「食堂っていうのも、カフェだとちょっとしゃれ込むじゃない。ある意味そこまでおしゃれな人間ではないから、恥ずかしくなっちゃうなって。(笑)
クールで洗練されたオシャレな感じではなくて、あくまでもおいしいものを食べてもらう場所であってほしいなって思いがありますね。」
■人もチャンスも、自分の力で引き寄せていく■
多くの人を引き付ける料理をつくり、センスにあふれた空間を調え、さらにはDIYもこなしてしまう菜穂さん。「やりたい!」と思ったことを次々と実現していく、その力の源はどこにあるのでしょうか?
菜穂さん:「『やりたかったことやってるんですね』って言ってもらえることもあるんですけど、でも逆に言えばこれしかできなくて。
一緒に働いていた人たちからもらった刺激も大きいですし、今もたくさん周りの人に支えてもらってる。本当に、人に会う運には恵まれているんですよね。」
「特に女運は強いんですよー!各地で出会った女の人に引っ張ってもらってきました。憧れ女子ばっかりですね。」菜穂さんはそう言って笑います。
「自分のお店をオープンさせる」というと、どこかキラキラと輝いて聞こえる響きがあります。でも、菜穂さんはそうしたイメージをいい意味で裏切る、自分の周りにあるチャンスをしっかりと自分に引き寄せる力をもっている人でした。
菜穂さんたちの温かさ、そして何より料理のおいしさに惹かれて、多くの人が今日も「食堂果樹」の扉を開きます。
皆さんも、おいしい料理と菜穂さんたちに出会いに、ぜひ「食堂果樹」を訪ねてみてくださいね。
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食堂果樹(しょくどうかじゅ)
住所:千葉県柏市中原1丁目7−15
Tel:047-168-0323
営業時間:
昼時間 11:30〜16:00(ランチラストオーダー15:30)
お茶時間 15:30〜17:00
夜時間 17:00〜21:00(ディナーラストオーダー20:00)
*現在夜営業はお休み中!詳細はインスタをご覧ください。
定休日:日・月・祝&不定休
ホームページ:http://shokudo-kaju.com/
日常の活動を紹介しているインスタグラム
https://www.instagram.com/shokudo.kaju/?hl=ja
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