おむすびマガジン 第14767号
2018.3.2発行

絵と共に、どんな出会いも楽しんで生きる。画家・北見美佳さん

突然ですが、あなたが子どもの頃将来なりたかったものはなんですか?
絵を描くことが好きな人の中には、「画家」だった人もいるかもしれません。

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omusubi不動産の入居者さんのひとり、北見美佳さんの職業は画家です。

「野獣派」の画家、山川茂さん(当時86歳)に師事し、2016年に独立。以来、国内外を旅し、その場所にまつわる絵を描き続けています。

いつも明るく、様々な出会いを楽しんでいる美佳さん。美佳さんが画家になったきっかけや大切な師匠である‟ムッシュ”との思い出、これからやっていきたいことを伺いました。

■画家への道をひらいた、ムッシュとの出会い■

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美佳さんの師匠・山川茂さんは、日本における「野獣派」の第一人者です。横浜の港湾労働者から、47歳にして画家を志し、単身渡仏。21年間のフランス滞在を経て、帰国後は奥さんで画家の陽子さんと共に、伊東にかまえたアトリエで多くの絵を描きました。美佳さんは、山川さんの最後の内弟子にあたります。

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こちらの絵は、美佳さんが描いたムッシュの背中。

※山川茂さんについてのより詳しい情報は、以下ウェブサイトをご覧ください。
「吾輩は野獣派である」 https://yamakawa47.tumblr.com/

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美佳さんが題材にするのは、旅先の風景。

長期間の旅に出て、心に残った場所や風景をスケッチし、アトリエで絵を完成させ、個展を開催して絵を販売します。そして、絵の売り上げをもとに、また新たな場所に旅に出て絵を描く、というのが美佳さんのスタイル。

現在は、夏に滞在した種子島を題材に、次回個展に向けて制作を進めています。

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「絵を描く上で一番大事にしているのは生命力です。風景の中に、温度や匂いを感じられるような絵を描きたいんです。もし宇宙人が私の絵を見たら、『地球ってすごくいとおしいところなんだな。残しておかなくちゃ!』みたいに思ってくれるような感じ。」

そんな美佳さんですが、元々画家を職業にするつもりはなかったのだそう。どうして画家になろうと思ったのでしょうか?

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「山川さんに出会ったからですね。私たち弟子はムッシュと呼んでいるんですが、ムッシュに出会った瞬間にびびっ!ときたんです。」

ムッシュに出会った頃は、旅館での仕事の傍ら、趣味で描いていたという美佳さん。仕事から帰ってきて、音楽を聴きながら絵を描く時間がストレス発散だったといいます。

「その頃、知り合いが世界的な画家に弟子入りしたって話を聞いて。何事だ!?と思って、私もムッシュに自分の絵を見てもらいに行ったんです。気軽な気持ちで行ったら、ムッシュと対面したとたん存在感に圧倒されてしまって!もうこの人についていくしかない!って思って、すぐに弟子入りさせてもらいました。」

美佳さんがムッシュに出会ったのは、ちょうど東日本大震災があったころ。震災を受けて、どうやってこれから生きていくのか悩んでいた時期でもあったのだそう。

「自分はやりたいことやってない、もっと今を生きなきゃ!って気持ちになったんですよね。だから、ムッシュと出会って、死ぬまで続けたいと思えることを見つけられたっていうのは、すごく幸せなことだなと思っています。」

■‟絵”漬けの内弟子生活■

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人生を大きく変えることになった出会いを経て、美佳さんはムッシュの内弟子に。アトリエでの住み込み生活が始まりました。

「朝は6時に起きて、まず絵を描く。朝ごはんを食べたらお昼まで絵を描く。お昼ご飯を作って、食べたらまた絵を描いて。晩ご飯を食べて、また寝るまで描いて、って感じです。

ムッシュや奥さんのマダム、私たち弟子は皆、1年に2,3回くらい個展をやります。そうすると常に誰かが個展前で、その手伝いもあったりするからめまぐるしいんです。時には全員でフランスへ取材旅行にいくこともありました。たまに画材を買いに行くことが日々の息抜きでしたね。」

ムッシュやマダム、他の内弟子たちと過ごす毎日は、まさに‟絵”のための日々。その中で教わったのは技術だけではなく、ムッシュの生き様や姿勢だったといいます。

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「絵の理論を教えてもらうことはあっても、細かい描き方や技術をムッシュから教わったことはあまりないかもしれません。ムッシュは、本当に毎日毎日、絵を描き続けた人でした。一緒に暮らしていたからこそ、そういう画家としての生きざまを見ることが出来たんだと思います。」

美佳さんの内弟子生活も数年が過ぎ、卒業を考え始めたころ、ムッシュが病に侵されていることがわかります。美佳さんはムッシュのもとに留まりました。

「ムッシュは徐々に声を出すことも難しくなっちゃって、ホワイトボードでやり取りしてたんです。『ムッシュ、何かありますか』って聞いたら、書いた言葉が『絵を描きたい』だった。結局、それがムッシュの最期の言葉となったんですが、もう本当にすごいなと思って。

私も、いつか自分が納得できる絵が描けるのかなって思うこともあります。でもそれは、画家の宿命みたいなものだから。追求し続けるしかないことをムッシュから教わりましたね。」

■松戸に引っ越す決め手は「田んぼ」■

ムッシュの最期を看取った美佳さんは、5年にわたる内弟子生活を卒業。独立するにあたって、つながりのない新しい土地に行こうと考えました。

「私はまだ画家になって数年。まずは、自分の絵や生きざまを、より多くの人に知ってもらう必要があります。だから、自分の人脈を広げるために新しい土地に行こうと思ったんです。」

そんなときに、たまたまネットで見つけたのがomusubi不動産の物件でした。実際にomusubi不動産を訪れ、田んぼをつくっているという話を聞いた美佳さんは、なんと物件を決める前にお米作りに参加することに!

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「命ある絵を描くためには、やっぱり命と触れ合ったり、土とまみれたりしないとだめだと思ったんです。土と触れられる機会があるなら、なるべく触れたかった。だから『ぜひやらせてください!』って言って、参加させてもらいました。すごくびっくりされましたけど!」 

そういって笑う美佳さん。その後無事物件を借り、松戸での生活をスタートさせます。

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入居するマンションには、美佳さんの他にもアーティストやクリエイターが多く暮らしています。入居者さん同士一緒にご飯を食べたり、時にはカラオケにも行ったりして、仲が良いのだそう。一部の入居者さんの間では、交換日記もやっているのだとか!

「すごい偶然だったんですが、ムッシュのところで出会った画家さんが同じマンションに入居されてたんですよ!そんなこと全然知らなかったから、びっくりして。他の入居者さんも田んぼのときに話しかけて仲良くなったりして、すごくつながってる感じがしますね。」

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また美佳さんは、omusubi不動産がせんぱく工舎プロジェクトの際に実施したクラウドファンディングにも協力してくださり、素敵な桜の絵を描いてくださいました。

■絵を軸に、たくさんの出会いを楽しむ■

ムッシュのもとでの内弟子生活、松戸での生活を経て、美佳さんは今また新たなステージに歩みを進めようとしています。
これからは、どんなことをやっていきたいと考えているのでしょうか?

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「私は本当に流れのままに生きているようなものなんですよね。あんまり目標とか設定したことないかもしれない、いきあたりばったりな感じで。

でも常に自分の芯としていることは、絵を描き続けること。そこをしっかりと守っていれば、あとはついてくるだろうと思っているんです。こだわりすぎず、良い意味で受け身でいられたらと思いますね。」

「絵を描くこと」に情熱を注ぎ、画家としてしっかり地に足をつけて生きながら、新しい出会いを楽しみ、自分のものにしていく美佳さん。

美佳さんが、また新たな出会いを経て描く絵を、とても楽しみにしています!

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画家 北見美佳(きたみ みか)
2011年 在仏歴21年の現役野獣派画家【山川 茂】画伯の、女性では初めての内弟子となる。(~2016年) 
2012年に初個展を開催以来、全国各地で個展を中心に活動。国内外の旅先で出会った風景をもとに「生命」をテーマに油彩画を描く。

2012年 第39回近代美術展(東京都美術館)F100号「ここで生きる」入選
2014年 第7回秀彩展(東京都美術館)F150号「パラダイス」新人賞

ホームページ
https://mikakitami.tumblr.com/
Facebook
https://www.facebook.com/mika.kitami.9

連絡先
Mail:kitamimika47@gmail.com
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