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おむすびマガジン 第18292号
2019.1.15発行

古民家を地域とつながる場にする実験Vol.3:見えてきた風景 「古民家マルシェ」イベントレポート

大正時代の古民家を改装して作られたスペース「隠居屋」。
古民家のこれからのあり方を探っていくため、トークイベントやジャズライブなど、実験的にイベントを開催してきました。

第3弾は「古民家マルシェ」!フードや雑貨など、多彩な出店者さんが集まったイベント当日や、隠居屋に関わる人々の様子を、ライターの中嶋希実さんが綴ってくださいました♪

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こんにちは、中嶋希実と申します。ふだんは人の話を聞く仕事をしています。

今年の初夏、omusubi不動産の殿塚さんからこんな連絡をもらいました。

「松戸にある古民家の使い方を考える実験をするので、イベントレポートを書いてもらえないかな。自分の目線で見て、どんな場所にしていくといいか、一緒に考えていくような記事をつくってほしいんだよね。」

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不動産に詳しいわけでも、建物に詳しいわけでもない私が、どんなことを書けるだろう。そう考えながら古民家「隠居屋 IN kyo-ya」で開催するトークイベントやジャズと料理のイベントに参加して、その様子をまとめてきました。

イベントに参加しているうちに感じたのは、回を重ねるごとに場所の使い方がくっきりしていくような空気。関わる人たちのあいだで、つくりたい風景が重なっていくのを見てきました。

実験の最終回となる「古民家マルシェ」も隠居屋の石井さんとomusubi不動産がともに企画、運営をしています。

たくさんの人で賑わう会場のベンチで、実験を通してどんなことを考えてきたのかomusubi不動産の殿塚さんに聞いてみました。

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「夏からトークイベント、ジャズキッチンと開催をしてきて。やっぱりはじめて外に開く場所ってどうなるか不安になる。でも、今回はそんなことなかったんだよね。」

不安がなかった。たくさんお客さんが来ることがわかっていた、ということですか?

「なんて言うんだろうな。2回のイベントを通して、この場所の良さは来てくれる人にちゃんと伝わるんだっていうのを感じるようになって。ここでこういう音楽が流れて、こういう笑い声が聞こえてくるんだろうなって。人の数というよりは、やってよかったと思える風景が見える気がしていたのかも。」

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松戸駅から徒歩20分ほどの隠居屋は、大正時代から残されているという立派な古民家。

omusubi不動産がこの建物の使い方について相談をもらったのは、1年ほど前のことでした。ちょうどそのころ、omusubi不動産にはほかにもいくつかの古民家について相談が寄せられていたそうです。

「仕事とか関係なく、こういう建物って単純に残って欲しいって思うんだよね。見ていてむっちゃきれいだし、使っている材料は今では手に入らないようなものもある。手をつかってつくられたこととか、そこに込められている時間の量が感じられるというか。」

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「いいものは長く残ったほうがいいと思っていて、残るためには形を変えることが必要で。この古民家は住居としての役割を終えて、今、形を変えようとしているんだよね。そこを僕たちのような不動産屋ができないと言ったら、僕たちの存在意義がないと思うんだよ。」

物件を持っていれば、そこで収益を上げたいと思うのは当然のこと。ただそれが最優先になってしまうと、古民家は残すより壊すという選択をせざるを得なくなってしまう。

相談を受けたものの、改修の費用や運営をどうつくっていくかが見えず、取り壊されてしまったものもありました。

「隠居屋は石井さんががんばって費用を捻出して改装されました。それってすっごい覚悟のあらわれだと思うんだよね。この場所を残していくために、その想いと経済が両立していく仕組みを考えようと実験的にイベントをはじめました。」

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場所の使い方を探りつつ、今後どう運営していくのがいいか考えるためのイベント。

当初、イベント後はomusubi不動産が借りるか、業務委託を受けて運営するかで悩んでいたそう。今は少し考えが変わってきたようです。

「石井さんの立場になったときに、場所ができました、omusubi不動産にバトンタッチしました、あとはうまくやってください。っていうのは、ちょっと違う気がしてきて。石井さんの気持ちをお聞きしながら自分たちも一緒に並走するような運営を続けていく方がいいんじゃないかと思うようになってきた。」

omusubi不動産では物件情報を預かって入居者を募集する、いわゆる不動産屋としての業務に加えて、コンセプトづくりから運営まで、大家さんから全部任せてもらうような物件も増えています。その場所がいい形で動いていくよう、大家さんと場の運営者という役割分担をわかりやすくすることで、スムーズな運営ができるようにしてきました。

ただこの隠居屋については、その役割分担を明確にすることがしっくり来ないと感じるようになったそう。

「いろんな物件に関わってきたけど、こう思うのってはじめてなんだよね。ほかとの違いはなんなんだろう。そう考えると、石井さんと会えたっていうのが一番の理由のような気がする。」

石井さんだから。

「僕たちがいくら古民家とかがいいと思ってご提案しても、持っている人が本気にならないと場所をつくる話は進まなくて。不動産屋をやってると、そこに無力感を感じることもあるんだよね。でも石井さんは、本気でここをいい場所にしたいと思っているのが伝わるんだ。」

テナントに貸してしまえば家賃も入るし、運営もしなくていい。隠居屋でも、この場所をつかってレストランを開きたいという相談を受けたこともありました。

それでも、イベントを開催していくなかで石井さんは、自分がずっと関わり続けることができる場所にしていきたいと思うようになったそう。

その計画は着々と進み、今は裏にある小さな蔵を改装しているところ。石井さん本人がずっとやりたいと思っていた、ギャラリーカフェを開く準備がはじまっています。

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「毎回、お互いがこの場所で大事にしたいことを話してきて。ここまで本気のオーナーさんに会えるのって本当に嬉しくて。ここではバトンを渡されるんじゃなくて、一緒に考えていきたい。共同運営みたいなかたちを相談しようと思っているところです。」

そんな話をしていると、マルシェをひと回りしていた石井さんがニコニコしながら声をかけてくれました。

「次回はいつやるの?って聞かれることが多くて。ずっとやっていたいくらい。次、どうしましょうか。」

殿塚さんにとっても、オーナーさんとの共同運営という新しいチャレンジを考えている隠居屋。どうやら石井さんも同じことを考えているようです。

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夕方が近づいてきても、マルシェにはひっきりなしに人がやってきます。

いちばん最初に売り切れたのは、石井さんがつくった焼き菓子。蔵ではじめるギャラリーカフェは「雨讀-udoku」という名前にすることを決めたそうです。

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お昼ごはんに人気だったのは、天然フルーツ酵母を使ったチーサのパン。

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パンのおともにコーヒーを飲む人も。イベント初出店だとは思えない落ち着いた雰囲気のym.の2人が淹れてくれました。また、季節のシロップを使ったドリンクを楽しむ人も。

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座敷にあがったところにはnakwachの古道具。どれも、もともとここの建物にあったように馴染んでいます。

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お隣には革小物を販売するNabe’sのブース。ハロウィンの小物をつくるワークショップも開いてくれました。

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オルゴールを聞かせて焙煎したコーヒー豆を持ってきてくれたTokoa coffeeの池田さん。豆の話がどんどん広がって、盛り上がっていました。

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私がお昼ごはんに選んだのは、TABELLがつくってくれたマクロビのランチ。迷ったあげく、ランチボックスをおいしくいただきました。

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あみぐるみpechkaのブースでは、かれこれ30分以上どれを買っていくか迷う人の姿。

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店主のかすみさんは「迷ってもらえるように、たくさんつくってるの」と嬉しそう。

じっくり座り込んで話をしたり、買うものを選ぶことができるのも、畳のあるこの建物ならではの風景だと思います。

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隠居屋はイベントをきっかけに立ち寄った人から使いたいという声も多く、まずはレンタルスペースとして運用していくことが決まったそうです。

3回のイベントを通して石井さんと殿塚さん、関わる人たちの空気が温かくなっていくのを感じました。

いい人がいれば、いい場所ができる。1番最初に開催したトークイベントで、そんな話がかわされていたことを思い出します。

ここも隠居屋という古民家がきっかけになっているものの、いい風景が見えてきたのは、人の想いが重なりはじめたからじゃないかな。そんなふうに思っています。

古民家を残していくための試行錯誤は続きます。この場所がいい風景を重ねることが、光になるような予感がしています。

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隠居屋では、現在レンタルスペース(時間貸し)を行っています。ご興味のある方はこちらをご覧ください♪