イベントレポート 第16257号
2018.8.20発行

古民家を地域とつながる場にする実験Vol.1:人が集う場所をつくるには?「6/16 古民家お座敷フォーラム」イベントレポート

「古民家を活かして、人々が集まれる空間をつくりたい」

そんな相談がomusubi不動産に舞い込んだのは、ちょうど1年前のこと。松戸駅から徒歩20分ほどの場所にあるこの物件は、大正時代から残されてきたという立派な古民家です。
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ちょうどそのころ、古民家を活用したいという相談はほかにも2件寄せられていました。

細かな装飾が施された欄間や建具、今では見ることのできないカマド、掘り出し物なんじゃないかと思う壺。実際に古民家のなかを見せてもらうと、昔の人が家を大切にしてきたことが伝わってきて、探検をしているような気分になります。

外観の美しさや空間の心地よさが好きな人、今ではつくることができない技術を残したいという声は、さまざまなところで耳にします。

でも実際に使うとなると、立ちはだかるのが山ほどの課題。

何年も使っていなかった水回りや抜けている床の修理にかかるお金。物置になっていた室内を片付けるだけでも嫌になってしまいそう。きれいにしたところで、どう使っていくか考えるのも頭の悩ませどころです。

相談をもらっていたほかの2件はそんな課題をクリアできず、残念ながら解体することが決まってしまいました。

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20年ほど使われていなかった松戸市のこの物件は、相談をくれた石井さんが時間をかけて、少しずつ改装してきました。

生まれ変わったこの場所のあたらしい名前は「隠居屋 IN kyo-ya」。

これからどんなふうに使っていこうか。石井さんと相談するうちに出てきたのは「いろいろな使い方を試してみて、そこで集まってくれるみなさんと一緒に考えていくのはどうか」ということでした。

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実験の第1弾として6月16日に開催したのが「古民家お座敷フォーラム」。

オープンのお祝いにいらした方々や松戸市内にお住まいの方、遠くは横浜から、たくさんの方が続々と集まります。

この日のために駆けつけてくれたSunniy’s coffee&music草薙多美さんがつくるコーヒーのいい香りがしはじめころには、お座敷が満席になりました。

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この日はトークイベント形式で、場所の使い方を考えていく日。

omusubi不動産の殿塚が聞き役を務めながら、ヒントになりそうな事例をたくさん知っている2人に話を聞いていきます。

1人目のゲストは、greenz.jpというWebマガジンを運営している植原正太郎さん。

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植原さんは「いかしあうつながり」を合言葉にさまざまなプロジェクトを紹介するWebマガジン「greenz.jp」を運営するかたわら、東京のビルの屋上などに畑をつくる「URBAN FARMERS CULB」という団体を立ち上げて活動しています。

たくさんのプロジェクトを見てきた植原さんが紹介してくれたのはこちらの3つ。それぞれ地域で、人が集まる場所づくりをしている事例です。

子どもや大人の”やってみたい”をかたちにするきっかけをつくりたい。「今週のgreenz people」は、「シンカイグリーンマーケット」の小林隆史さん!

キーワードは“映画館だけじゃない映画館”。クラウドファンディングで復活を果たした、クリエーターとコミュニティの拠点「豊岡劇場」

目的や意義を追い求めない場があってもいいんじゃない?「尼崎ENGAWA化計画」藤本遼さんのあり方から感じ取る、“グラデーション”ある世界を生きるということ。

植原さん
「いろいろな人が集まる場所をつくるのに大事なことは、この3つだと思います。1つは継続していくこと。毎月1回欠かさずイベントを開催するとか、たまに人が集まらなくてもめげずに続けることって大事だなと。

もう1つは多くの意味をつくること。豊岡劇場は映画を見る場所というだけではなくて、お茶を飲みに行くとか、公民館みたいに使うとか。その場所に行く意味をたくさんつくれている場所には、人が集まってくるんですよね。

3つめの大事なことは、開いて委ねる。そこに集まってくる人たちの自主性を重んじたり、場所の使い方を委ねていくことがポイントなのかなと思っています。」

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2人目のゲストは、「MotionGallery」の大高健志さん。なにかをはじめるときの資金をプロジェクトに共感する人たちから集める仕組み、クラウドファンディングのプラットフォームを運営しています。

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大高さんは古民家を使った事例を紹介してくれました。

「消費者」から「文化の創造者」になろう!「パーマカルチャーと平和道場」

島根の離島・海士町で古民家を改装して菓子工房をオープンしたい!

アウトサイダー・アート専門のギャラリー「クシノテラス」をオープンしたい

大高さん
「3つの共通点を考えると、まずはコアなコミュニティをつくっているところだと思います。クラウドファンディングでお金が集まるものって、薄く広く届くものより、本当に自分がやりたくて、誰がついてくるかわからない。それでもエッジが立っているようなプロジェクトにはお金が集まって、動き出すんです。

たとえばクシノテラスは、誰が行くんだろうっていうくらい広島の山奥にあります。それでも自分がやりたいことをとことんやることで、共感した人たちが集まってくる。僻地、かつニッチなものに対してお金が集まる。今では、アウトサイダー・アートに興味を持っている人たちの聖地巡礼ポイントになるくらいの場所になっているらしくて。人が集まってコミュニティができているんです。」

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さらにもう1つ人を巻き込むポイントとして紹介してくれたのは、クラウドファンディングで900万円を集めたこのプロジェクト。

京都・出町柳エリアの商店街に新しいカルチャー発信地を。映画×本屋×カフェの融合ビル「出町座」

大高さん
「応援してくれた人のほとんどが、知り合いでも近所の人でもありませんでした。不思議になって聞いてみたら「昔近所に住んでいて、こういう場所がほしかったんです」とか、今は関係ないけれどこの場所の歴史に関わってきた人たちだった。歴史や文脈をひろっていくことも、人に共感してもらえるポイントになるんだと知りました。」

すると参加者からは「松戸って特色がないなと思っているんです。松戸でやる意味って、なんなんでしょう」という声も。

殿塚
「町のためにって言うと大げさになってしまうので、僕は住んでいる町が住みやすくなったらいいな、くらいのところから考えています。

たしかに特徴はないけど、実はその余白も大切で。東京に近いところでこんな古民家が残っていて、しかも自由に関わっていい。ピンチをチャンスに変えるようなことができたらおもしろいかなって思うんです。」

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大高さん
「実は僕、これまで松戸に4回来ているんですよ。つけ麺富田のラーメンが食べたくって来るんです。でも4時間待ちで、毎回3時間くらいで諦めて帰る。実はまだ食べたことないんですよね。駅前にあるPARADISE AIRのアートとラーメンを組み合わせて特色にするとか。

僕はpopcornという誰でも映画館をつくることができるプロジェクトもやっていて。ラーメン富田って映画にもなってるんですよ。この場所で上映会をして、土間にあるキッチンでラーメンをつくってもらうってどうですか。そうしたら僕、ようやく富田のラーメンが食べられます。」

ほかにも会場からは「音楽をつくるワークショップ」や「包丁研ぎ教室」など、この場所を使ってみたい人からのアイディアが飛び交いました。

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殿塚
「僕らは不動産屋として古民家の話をもらうこともあります。この場所は石井さんが時間もお金もかけてリノベーションされたからこの形になったけど、全部の古民家を個人の意志だけでは残すのはなかなか難しい。

古民家の活用でよくあるのが地域に開いた公民館みたいな使い方です。もちろんそれも素晴らしいけど、人は集まるかもしれないけど、ちゃんとお金が回る仕組みができれば、残せるものもあるんじゃないかと考えていて。

2人の話を聞きながら、エッジを立て個性を出していくことが、人が集まってお金が回るポイントなんだと思いました。石井さんとこの場所を使う人、そして街との関係をどうつくっていくといいか引き続き考えていきたいと思います。今日はありがとうございました!」

この日のイベントはこれで終了。

たくさんの事例を知ることで、この場所の使い方の視野が広がったような気がします。手がかりになりそうなのは、どれだけ多様な人が関われる場にしていくか、ということなのかもしれません。

いろいろな人が集まってワイワイしているのを想像すると、なんだか楽しそう。でも実際にはオーナーが1人でつくっていくよりも、時間と手間がかかることのような気もします。

中心にいる人がどんな人で、集まる人とどう関わっていくのか。植原さんや大高さんが紹介してくれた事例を聞いていても、人が中心になって場所の空気がつくられているように思いました。

そんなことを考えていたときに見かけたのが、石井さんが手づくりのお菓子を振る舞っている様子。

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はじめましての人にも満面の笑みで接してくれる石井さんの周りには、常に人が集まっている。その様子を見ていて、なんだかいい予感がしたのは、私だけではないと思います。

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まだまだ続く、古民家を使った実験。9月29日にはマルシェのようなイベントを計画中です。次はこの場所がどんな表情を見せるのか、今からとても楽しみです。

(写真・文 中嶋希実)